『箱の中の羊』を映画館で鑑賞してきました。
カンヌ国際映画祭への出品でも話題になっていた作品で、感想を見ると賛否も分かれていたので気になっていた映画です。
私は109シネマズで鑑賞。上映3週目の平日だったので空いているかなと思っていたのですが、劇場に入る頃には思った以上にお客さんがいて少し驚きました。
やっぱり是枝裕和監督作品は注目度が高いですね。
予告編を観たときは、亡くなった息子の姿をしたヒューマノイドが登場することもあり、どこかSF作品のような印象を受けていました。
でも実際に観てみると、この映画が描いていたのは未来の技術というより、人の記憶や喪失、そして生きること。
美しい映像とチェロの音色に包まれながら、静かに物語へ引き込まれていきました。
観終わったあとも、「箱の中の羊」というタイトルの意味を考え続けてしまう。
そんな不思議な余韻の残る作品でした。
作品情報
| タイトル | 箱の中の羊 |
|---|---|
| 監督・脚本 | 是枝裕和 |
| 出演 | 綾瀬はるか、大悟、桒木里夢、清野菜名、寛一郎、余貴美子、田中泯 ほか |
| 上映時間 | 125分 |
| 公開日 | 2026年5月29日 |
あらすじ
少し先の未来。
建築家の音々と工務店を営む夫・健介は、2年前に亡くした息子・翔の姿をしたヒューマノイドを迎え入れます。再び息子と過ごせることを喜ぶ音々。
一方で、健介は複雑な気持ちを抱えたまま、その存在と向き合っていきます。
ヒューマノイドという設定こそ登場しますが、本作が描いているのはSFというよりも、家族の記憶や喪失、そして生きること。静かな時間の中で進んでいく人間ドラマです。
SFではなく、人の記憶や喪失を描いた物語

予告編を観たときは、亡くなった息子の姿をしたヒューマノイドが登場することもあり、私はSF作品を想像していました。どこか『エクス・マキナ』を思わせる雰囲気もあり、人間とAIの関係を描く物語なのかなと。
実際に鑑賞してみると、その印象はかなり違いました。
もちろんヒューマノイドは物語の中心にいます。
けれど本作が描いているのは、未来の技術そのものではありません。
息子を失った夫婦が抱える悲しみや後悔。
時間が止まったままの家族が、少しずつ前へ進もうとする姿。
そういった人間の感情が丁寧に描かれています。
派手な展開がある作品ではありませんが、だからこそ登場人物たちの気持ちの変化が静かに伝わってきました。近未来を舞台にしながらも、本質的にはとても普遍的な人間ドラマだったと思います。
綾瀬はるかと大悟の夫婦が自然だった

鑑賞前に少し気になっていたのが、綾瀬はるかと大悟の夫婦役です。正直なところ、「どんな感じになるんだろう?」と思っていました。
でも実際に観てみると、その心配はすぐになくなりました。ふたりの間に流れる空気感がとても自然で、夫婦として違和感なく物語に入り込むことができます。
特に印象的だったのは、息子を失った悲しみへの向き合い方の違い。
同じ出来事を経験していても、
受け止め方や気持ちの整理の仕方は人それぞれです。
その微妙な距離感やすれ違いが丁寧に描かれていて、リアルな夫婦に見えました。
派手な感情表現ではなく、言葉にならない想いや沈黙で見せる場面も多く、是枝監督らしい演出だなと感じます。
綾瀬はるかも大悟も、それぞれの役にしっかり溶け込んでいて、とても印象に残る夫婦でした。
建築家と工務店の夫婦という設定も印象的

個人的に興味深かったのが、綾瀬はるか演じる音々が建築家で、大悟演じる健介が工務店の2代目社長という設定です。
物語の中では注文住宅の設計に関する場面も描かれていて、建築の仕事をしていた頃のことを思い出しました。家づくりは、まだ見ぬ未来の暮らしを想像する仕事です。
どんな生活を送りたいのか。
どんな時間を過ごしたいのか。
答えがひとつではないからこそ難しく、そして面白い。
映画の中でも、そんな家づくりの魅力が自然に描かれていました。
また、夫婦が暮らす中庭のある家も印象的です。
この家は実際に北鎌倉にある設計事務所の自宅兼事務所を使用しているそうで、映画の世界観にもよく合っていました。
中庭を囲むように配置された空間や、大きな木の存在感がとても心地よく、家そのものが物語の一部になっているように感じます。
建築好きの人なら、ストーリーだけでなく空間や住まいの魅力にも目を奪われるかもしれません。
鎌倉・大船・藤沢の風景に親近感

本作の舞台は鎌倉や大船、藤沢周辺。普段見慣れている場所や風景が登場することもあり、個人的にはとても親近感を覚えました。
近未来という設定ではあるものの、どこか現実の延長線上にある世界。
その距離感が絶妙です。
未来の話なのに遠い世界には感じない。
もしかしたら数年後、数十年後には本当にこういう暮らしがあるのかもしれない。
そんな不思議なリアリティがありました。
特に印象的だったのは、自然と建築が調和した風景です。
派手な未来都市ではなく、今の鎌倉や湘南の空気感を残しながら少しだけ未来へ進んだ世界。
その世界観がとても心地よく感じました。
地元を知っている人なら、「あ、この場所かも」と思う場面もあるかもしれません。
物語だけでなく、風景を眺める楽しさもある作品でした。
チェロの音色と映像美が心地いい
この映画で特に印象に残ったのが、美しい映像とチェロの音楽です。
大きな出来事が次々と起こる作品ではありません。だからこそ、光の入り方や風景、登場人物たちの表情といった細かな部分に自然と目が向きます。
中庭の木々が揺れる様子や、家の中に差し込む光もとても印象的でした。
そして、その映像に寄り添うように流れるチェロの音色。
主張しすぎることなく、作品全体を静かに包み込んでいました。
鑑賞後に振り返ると、物語そのものだけでなく、
映像や音楽の心地よさも余韻として残っている気がします。
派手な演出や分かりやすい感動を求める作品ではありませんが、その静かな空気感こそ本作の魅力なのだと思います。
個人的には、この作品は配信よりも映画館で観て良かったと思える一本でした。大きなスクリーンと音響だからこそ味わえる空気感があり、映像と音楽にしっかり浸ることができました。
「箱の中の羊」の意味を考えたくなる

この映画を観ていて、個人的に一番気になったのはタイトルでした。
私は映画を観るとき、なぜそのタイトルになったのかを考えながら観ることがよくあります。
そして本作の『箱の中の羊』というタイトルも、とても印象的でした。
鑑賞後にパンフレットを読んで知ったのですが、このタイトルは『星の王子さま』に登場する「箱の中の羊」に由来しているそうです。
映画を観る前は意味が分からなかったものの、鑑賞後はなんとなくその意図が見えてきたような気がしました。
もちろん明確な答えが示されるわけではありません。
だからこそ、人によって受け取り方も違うのだと思います。
ヒューマノイドのことなのか。
亡くなった息子との記憶なのか。
それとも別の意味があるのか。
正解は分かりません。
でも、映画館を出たあともタイトルについて考えてしまう。
それはこの作品が、答えを与える映画ではなく、
観る人それぞれに問いを残す映画だからなのかもしれません。
観終わったあとに誰かと感想を語り合いたくなる。
そんな不思議な魅力のあるタイトルでした。
まとめ
『箱の中の羊』は、ヒューマノイドという近未来的な設定を取り入れながらも、人の記憶や喪失、そして生きることを静かに見つめた作品でした。
派手な展開や分かりやすい結末がある映画ではありません。
だからこそ、観る人によって心に残る場面や受け取り方も違うのだと思います。
個人的には、美しい映像やチェロの音楽、中庭のある家の空間、そして「箱の中の羊」というタイトルが特に印象に残りました。
鑑賞後もしばらく作品について考え続けてしまうような、不思議な余韻があります。
正直、人によっては「難しい」と感じるかもしれません。
それでも、映画館の大きなスクリーンと音響で味わいたい作品だったと思います。
静かな映画が好きな人。
是枝裕和監督作品が好きな人。
そして、映画を観終わったあとも少し余韻に浸りたい人にはおすすめの一本です。

