『隣人たち』を観ていて、印象に残ったもののひとつが、アン・ハサウェイとジェシカ・チャステインの髪型や衣装でした。
1960年代のアメリカを舞台にした作品ということもあり、二人のファッションやヘアスタイル、暮らしている家のインテリアまで、当時の雰囲気がとても丁寧に作り込まれています。
映画を観終わったあと、パンフレットを眺めていると、そんな二人のビジュアルには実際に参考にした女性がいたことを知りました。
アン・ハサウェイが演じるセリーヌのイメージの参考になったのは、アメリカの元ファーストレディとして知られるジャクリーン・ケネディ。
そして、ジェシカ・チャステインが演じるアリスの参考になったのは、映画『鳥』や『マーニー』などで知られる女優、ティッピー・ヘドレンでした。
「なるほど。だから、あの雰囲気なのか」と、知った瞬間に映画の見え方が少し変わった気がします。
しかも調べてみると、ティッピー・ヘドレンからは、さらに現代のハリウッド女優へと映画界の面白いつながりがありました。
今回は、『隣人たち』の衣装と髪型をきっかけに、二人の女優が参考にした1960年代を代表する女性たちについて、少し掘り下げてみたいと思います。
『隣人たち』の衣装と髪型に注目
『隣人たち』の舞台は1960年代のアメリカ。
セリーヌとアリスは、郊外の隣り合った家に暮らす親友同士で、どちらも夫と息子とともに、裕福で整った暮らしを送っています。
そんな二人の生活を映し出すのが、当時の雰囲気をたっぷり感じられる衣装やヘアスタイル。
セリーヌを演じるアン・ハサウェイと、アリスを演じるジェシカ・チャステインは、同じ時代を生きる女性でありながら、どこか対照的な印象を受けます。
きちんとセットされた髪、上品な服装、アクセサリーなど、細かな部分まで作り込まれていて、二人が暮らす家のインテリアと合わせて見ると、まるで1960年代の雑誌から抜け出してきたよう。
特に印象的なのが、「完璧な妻」「完璧な母親」に見える二人の姿です。
家もきれい。
服装もきちんとしている。
家族との暮らしも、一見すると何も問題がない。
そんな「完璧に見える日常」が、この映画では少しずつ崩れていきます。
だからこそ、衣装や髪型の美しさが、単なる時代設定のためだけではなく、物語そのものにもつながっているように感じました。
そして、このビジュアルには偶然ではなく、それぞれ明確なモデルとなった女性がいたそうです。
アン・ハサウェイが参考にしたのが、ジャクリーン・ケネディ。
そしてジェシカ・チャステインが参考にしたのが、ティッピー・ヘドレン。
どちらも1960年代を象徴する女性です。
ここからは、この二人がどんな女性だったのか、そしてなぜ『隣人たち』のキャラクターの参考になったのかを見ていきます。
アン・ハサウェイが参考にしたジャクリーン・ケネディ

アン・ハサウェイがセリーヌのビジュアルをつくるうえで参考にしたのが、ジャクリーン・ケネディです。
ジャクリーン・ケネディといえば、
アメリカの第35代大統領ジョン・F・ケネディの妻として知られる女性。
1961年から1963年までファーストレディを務め、その洗練されたファッションやヘアスタイルは、当時のアメリカだけでなく世界中から注目を集めました。
1960年代の「洗練された女性」の象徴

ジャクリーンの魅力は、単に高価な服を身につけていたことではありません。
シンプルでありながら品のある服装、整えられたヘアスタイル、そして帽子やサングラスなどの小物。どれも派手すぎるわけではないのに、ひと目で「ジャッキー」と分かるほど、独自のスタイルを確立していました。
特に有名なのが、丸みのある大きめのヘアスタイルや、上品なスーツ、Aラインのシルエット。1960年代のアメリカにおける、知的でエレガントな女性像を象徴する存在でした。
『隣人たち』のセリーヌにも、そんなジャクリーンを思わせる雰囲気があります。
セリーヌは裕福な家庭の妻であり、母親。
家の中もきれいに整えられ、服装や髪型にも隙がありません。
一見すると、何もかも手に入れているような女性です。
だからこそ、アン・ハサウェイがジャクリーン・ケネディを参考にしたという話を知ると、セリーヌの外見がより意味を持って見えてきます。
完璧に整えられた外見と、その内側で少しずつ揺らいでいく心。
そのコントラストが、『隣人たち』のセリーヌという人物をより印象的にしていたのかもしれません。映画を観る前なら、ただ「1960年代らしい素敵な衣装」と見ていたかもしれません。
でも、ジャクリーン・ケネディが参考になっていると知ってからもう一度思い返すと、セリーヌの姿には、当時の理想的な女性像そのものが重ねられていたようにも感じます。
ジェシカ・チャステインが参考にしたティッピー・ヘドレン

ジェシカ・チャステインがアリスのビジュアルをつくるうえで参考にしたのが、女優のティッピー・ヘドレンです。
ティッピー・ヘドレンは、1960年代を代表するブロンド女優のひとり。特に知られているのが、アルフレッド・ヒッチコック監督の『鳥』や『マーニー』です。
ヒッチコックに見出された女優

ティッピー・ヘドレンは、もともとファッションモデルとして活動していました。
その後、アルフレッド・ヒッチコック監督に見出され、映画『鳥』で主演に抜てきされます。『鳥』で演じたメラニーは、洗練されたファッションに身を包み、ブロンドヘアを整えた都会的な女性。
まさに1960年代を象徴するような美しさを持ったキャラクターでした。続く『マーニー』でもヒッチコック作品の主演を務め、当時を代表する女優として知られるようになります。
『隣人たち』でジェシカ・チャステインが演じるアリスの姿を見ていると、ティッピー・ヘドレンを参考にしたというのも納得できます。
ブロンドヘアそのものだけではなく、上品さの中にどこか緊張感を感じさせる雰囲気。
きちんと整えられた外見と、その奥にある感情の揺らぎ。
そこには、ティッピー・ヘドレンがヒッチコック作品で見せた女性像と重なる部分があります。
『隣人たち』とヒッチコックの不思議なつながり
そして、ここが個人的に面白いと思ったところ。
以前『隣人たち』を観た感想でも触れたように、この映画は最初、郊外で暮らす二人の母親を描いた人間ドラマとして始まります。
ところが、物語が進むにつれて、二人の間に疑念が生まれ、少しずつ緊張感が高まっていく。
そして気がつけば、ヒッチコック的な心理スリラーへと変化していきます。
そんな作品で、ジェシカ・チャステインが参考にしたのが、まさにヒッチコック作品を代表する女優ティッピー・ヘドレンだった。
これは偶然なのか、それとも意識的なものなのか。
パンフレットでこの事実を知ってから映画を振り返ると、アリスの髪型やファッションだけではなく、彼女がまとっている少し張り詰めた空気まで、ティッピー・ヘドレンを意識して作られていたように感じます。
映画の背景を知ってから作品を思い返すと、何気なく見ていた衣装や髪型にも、実はたくさんの意味が込められているのかもしれません。
ジャクリーン・ケネディとティッピー・ヘドレンに共通する「1960年代の女性像」
ジャクリーン・ケネディとティッピー・ヘドレン。
ひとりはファーストレディ、もうひとりは女優。
立場も生き方もまったく違う二人ですが、
こうして並べてみると、どこか共通する雰囲気があります。
それは、1960年代を象徴する「洗練された女性」のイメージです。
整えられたヘアスタイル、上品なファッション、きちんとした立ち姿。
どちらも「美しく、知的で、隙がない」という印象を持っています。
『隣人たち』のセリーヌとアリスも、まさにそんな女性たちとして描かれています。
二人は裕福な家庭で暮らし、家もきれいに整えられている。
夫がいて、子どもがいて、周囲から見れば幸せな生活を送っているように見える。
いわば、「理想的な家庭の妻であり母親」です。
だからこそ、二人のビジュアルにジャクリーン・ケネディとティッピー・ヘドレンが重ねられていることには、意味があるようにも感じました。
「完璧に見える女性」の、その内側
『隣人たち』で描かれているのは、そんな完璧に見える日常が、少しずつ崩れていく物語です。
外から見れば、何も問題がない。
でも、その内側には、誰にも見せない感情がある。
喪失、嫉妬、罪悪感、疑念、そして愛情。
それらが積み重なっていくことで、二人の関係は少しずつ変わっていきます。
そう考えると、映画の中で丁寧に作り込まれた衣装や髪型も、単なる「1960年代らしさ」を表現するためだけのものではないのかもしれません。
完璧に整えられた外見と、その内側で揺れ動く心。
そのギャップこそが、この映画の面白さのひとつだったのではないでしょうか。
そして、そんな二人の女性像を象徴する存在として、ジャクリーン・ケネディとティッピー・ヘドレンが選ばれた。
そう知ってから映画を振り返ると、衣装やヘアスタイルまで含めて、作品の見え方が少し変わってきます。映画はストーリーだけでなく、「誰を参考にして、どんな人物像を作り上げたのか」を知ることで、さらに深く楽しめる。
今回の『隣人たち』は、そんな映画の面白さを改めて感じさせてくれる作品でした。
ティッピー・ヘドレンからダコタ・ジョンソンへ

ティッピー・ヘドレンについて調べていて、もうひとつ面白かったのが、その家族関係です。
ティッピー・ヘドレンの娘は、女優のメラニー・グリフィス。
メラニー・グリフィスといえば、1989年の映画『ワーキング・ガール』で主演を務めた女優として、私も以前から知っていました。
そして、そのメラニー・グリフィスの娘が、現在ハリウッドで活躍するダコタ・ジョンソンです。
つまり、

ティッピー・ヘドレン
↓
娘:メラニー・グリフィス
↓
孫:ダコタ・ジョンソン
という映画界の家族。
1960年代にアルフレッド・ヒッチコックの作品で注目されたティッピー・ヘドレン。その娘のメラニー・グリフィスも女優として活躍し、さらにその娘のダコタ・ジョンソンも映画界へ。
こうして世代を超えて女優が受け継がれていると思うと、ちょっと面白いですよね。
今回、『隣人たち』でジェシカ・チャステインがティッピー・ヘドレンを参考にしたことを知ったのがきっかけで、改めて彼女について調べてみたのですが、そこから『ワーキング・ガール』のメラニー・グリフィス、そしてダコタ・ジョンソンへとつながっていきました。
一本の映画を観たことをきっかけに、「この女優さんは誰を参考にしたんだろう?」と調べてみる。すると、知らなかった映画や俳優の名前が出てきて、そこからまた別の作品へ興味が広がっていく。
こういう映画から映画へ、そして世代から世代へとつながっていく発見も、映画を観る楽しさのひとつなのかもしれません。
まとめ|映画を観たあとに、もう一歩寄り道してみる

『隣人たち』を観たあと、パンフレットを読んで知ったアン・ハサウェイとジェシカ・チャステインのモデルになった女性。
アン・ハサウェイは、ジャクリーン・ケネディ。
ジェシカ・チャステインは、ティッピー・ヘドレン。
どちらも1960年代を象徴する女性たちでした。
最初は「この時代の衣装や髪型、素敵だな」と思って見ていたものが、参考にした人物を知ることで、少し違って見えてくる。
特にティッピー・ヘドレンについて調べていくと、ヒッチコック作品の『鳥』や『マーニー』にたどり着き、さらに娘のメラニー・グリフィス、孫のダコタ・ジョンソンへと映画界のつながりが広がっていきました。
こういう発見があるのが、映画の面白いところ。
映画を一本観て、「面白かった」「ちょっと惜しかった」で終わるのももちろんいい。
でも、気になった俳優や衣装、音楽、舞台になった場所などを少し調べてみると、そこからまた別の映画に出会えることがあります。今回の『隣人たち』も、私にとってはそんな一本でした。
映画を観て、気になったことをもう一歩だけ深掘りしてみる。
そこから思いがけない映画や人物につながっていく。
そんな「映画の寄り道」も、これからも楽しんでいきたいと思います。

