先日、少し足を伸ばしてkino cinema 横浜みなとみらいへ、『隣人たち』を観に行ってきました。
上映館が限られていた作品ですが、予告を観たときから「これは映画館のスクリーンで観たい」と思っていた一本。
アン・ハサウェイとジェシカ・チャステインという二人の実力派女優が共演していることに加え、アメリカの映画配給会社NEONが手がけていることも、気になった理由のひとつでした。
さらに本作は、ベルギーの作家バーバラ・アベルの小説を原作に、2018年にベルギーで映画化された『母親たち』の英語版リメイク。
1960年代のアメリカを舞台に、隣人で親友同士だった二人の母親が、ある事故をきっかけに少しずつ疑念と妄想にのみ込まれていくサイコスリラーです。
実際に観てみると、1960年代の空気を感じさせる衣装やインテリア、そして美しい映像はとても印象的でした。
アン・ハサウェイとジェシカ・チャステインの演技も素晴らしく、二人の間に生まれる緊張感に最後まで引き込まれます。
ただ、観終わったあとに残ったのは、「とても丁寧に作られた映画だからこそ、もう一歩、心の奥まで揺さぶってほしかった」という少し複雑な気持ちでした。
今回は、原作やベルギー映画『母親たち』との関係にも触れながら、『隣人たち』の見どころや、実際に映画館で観て感じたことを紹介します。
『隣人たち』作品情報
- タイトル:隣人たち
- 原作:バーバラ・アベル「Behind the Walls」
- 監督:ブノワ・ドゥローム
- 出演:アン・ハサウェイ、ジェシカ・チャステイン、アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ジョシュ・チャールズ
- 上映時間:94分
- 製作国:アメリカ・ベルギー・フランス・イギリス
- 劇場公開日:2026年7月24日
『隣人たち』はどんな映画?

『隣人たち』は、アン・ハサウェイとジェシカ・チャステインが共演するサイコスリラー。
舞台は1960年代のアメリカ。
隣り合う家に暮らすセリーヌとアリスは、同じ年頃の息子を育てる親友同士。裕福な家庭で、家族にも恵まれた二人は、周囲から見ても完璧な生活を送っていました。
しかし、ある日、セリーヌの息子が不幸な事故に遭ったことで、二人の関係は大きく変わっていきます。
息子を失ったセリーヌは深い喪失感を抱えながら、アリスの息子テオに心を通わせるように。
その姿を見たアリスは、少しずつ疑念を抱き始めます。
「なぜ、あんなに息子に近づくの?」
小さな違和感から始まった疑念は、やがて嫉妬や妄想へと変化。これまで信頼し合っていた二人の間に、少しずつ見えない亀裂が入っていきます。
本作の面白さは、何か大きな事件が次々と起こるというよりも、「もしかして……」という疑念が少しずつ膨らんでいく怖さにあります。
相手を信じたい気持ちと、疑ってしまう気持ち。
母親としての愛情と、自分自身の心を守ろうとする感情。
その境界線が曖昧になっていくにつれて、観ているこちらも「本当は何が起きているの?」と引き込まれていきます。果たして、二人の間で何が起きているのか。
そして、親友だった二人の関係はどこへ向かってしまうのか。静かな日常の中に潜む、人間の心の怖さを描いた作品です。
『隣人たち』は『母親たち』のリメイク|原作から続く物語
『隣人たち』を語るうえで、知っておきたいのが、そのルーツです。本作の原作は、ベルギーの作家バーバラ・アベルの小説。
この小説をオリビエ・マッセ=ドゥパス監督が映画化したのが、2018年のベルギー映画『母親たち(Duelles)』です。
『母親たち』は、ベルギーのアカデミー賞ともいわれるマグリット賞で史上最多となる9部門を受賞。作品として高い評価を受けました。
そして、その『母親たち』を英語圏向けにリメイクしたのが、今回の『隣人たち』です。
つまり、
2012年 バーバラ・アベルの原作小説
↓
2018年『母親たち』
(監督:オリビエ・マッセ=ドゥパス)
↓
2024年『隣人たち』
(監督:ブノワ・ドゥローム)
という流れ。
こうして見ると、単なる新作サイコスリラーではなく、評価の高かったベルギー映画を、アン・ハサウェイとジェシカ・チャステインというハリウッドを代表する女優二人で再び映画化した作品だということが分かります。
監督交代という興味深い制作背景
もうひとつ気になるのが、今回の監督について。
『母親たち』を手がけたオリビエ・マッセ=ドゥパスは、当初このリメイク版でも監督を務める予定でした。ところがクランクイン1週間前に監督が降板。
そこで、撮影監督として本作に参加する予定だったブノワ・ドゥロームが、急きょ長編映画の監督を務めることになりました。しかも決定はクランクイン3日前だったとか。
しかもブノワ・ドゥロームは、監督だけでなく撮影監督も兼任。
『青いパパイヤの香り』や『博士と彼女のセオリー』などで知られる撮影監督が、長編監督デビュー作として完成させたのが、この『隣人たち』なのです。
この背景を知ると、今回の作品で特に印象に残った映像の美しさにも納得できます。
そして個人的には、ここまで知ると少し気になってしまう。
「もしオリビエ・マッセ=ドゥパス監督が、そのまま完成させていたら、どんな『隣人たち』になっていたんだろう?」そんなことを、観終わったあとに考えてしまいました。
見どころ① アン・ハサウェイ×ジェシカ・チャステインの演技

『隣人たち』でまず注目したいのが、アン・ハサウェイとジェシカ・チャステインという二人の女優。
どちらもこれまで数々の作品で印象的な演技を見せてきた実力派ですが、今回は親友だった二人の母親を演じています。
アン・ハサウェイが演じるのは、息子を事故で失うセリーヌ。突然の悲劇によって、それまでの穏やかな日常が崩れ、深い喪失感を抱えることになります。
一方、ジェシカ・チャステインが演じるのはアリス。親友のセリーヌを心配しながらも、息子テオとの距離が近づいていく彼女の姿を見て、少しずつ違和感を覚えていきます。
この二人の演技で面白いのが、大きな感情をあえて表に出さない場面。
笑顔や何気ない会話の中に、ほんの少しの戸惑いや警戒心が見える。
「今の表情、どういう意味なんだろう?」
そんな小さな変化を追いながら観ていると、二人の関係が少しずつ変わっていくのが伝わってきます。特に、セリーヌとアリスのどちらを信じればいいのか分からなくなっていく感覚は、この作品ならでは。
観ている側まで疑心暗鬼になってしまうような、二人の繊細な演技は見応えがあります。
ジェシカ・チャステインといえば『ゼロ・ダーク・サーティ』
個人的にジェシカ・チャステインを強く印象に残った作品といえば、『ゼロ・ダーク・サーティ』。
冷静で芯の強い女性を演じた姿がとても印象的でした。今回の『隣人たち』では、そこから一転して、愛する息子を守ろうとする母親としての不安や疑念を表現。
出演作を数えてみたら、私自身、ジェシカ・チャステインの映画を12本も観ていました。『女神の見えざる手』や『モリーズ・ゲーム』も好きですが、個人的に一番好きなのは『ラブストーリーズ』です。
作品によってまったく違う表情を見せてくれる女優だからこそ、今回のアリス役も楽しみにしていました。
そして、アン・ハサウェイもこのあと公開を控えている作品が複数あるので、これからまたスクリーンで彼女を観られるのが楽しみです。
二人の演技を目当てに観るだけでも、十分に映画館へ足を運ぶ価値のある作品だと思います。
見どころ② 1960年代の空気を感じる美しい映像

『隣人たち』を観ていて、もうひとつ強く印象に残ったのが映像の美しさです。
舞台は1960年代のアメリカ。
セリーヌとアリスが暮らす家は、どちらも裕福な家庭らしい上品なインテリアでまとめられていて、家具や照明、壁紙、食器に至るまで、当時の雰囲気が丁寧に作り込まれています。
二人の衣装も印象的。
華やかでありながら品のあるファッションは、まさに1960年代のアメリカを感じさせるもの。アン・ハサウェイとジェシカ・チャステインが着こなすことで、より画面の中に映えていました。
そして、この作品はずっと同じトーンで進むわけではありません。物語は、最初は郊外で暮らす二人の母親を描いた人間ドラマとして始まります。
ところが、息子の事故をきっかけに二人の関係が少しずつ変化していくにつれて、作品の空気も次第に不穏なものへ。
やがて物語は、郊外の人間ドラマから、まさにヒッチコック的なスリラーへと移行していきます。明るく整った家や穏やかな日常が、少しずつ疑念と緊張感に包まれていく。
最初は美しく見えていた風景が、いつの間にかどこか息苦しく感じられてくるのも、この作品の面白いところです。
撮影監督出身のブノワ・ドゥロームが描く世界
本作で監督と撮影監督を務めたブノワ・ドゥロームは、もともと撮影監督として長く活躍してきた人物。『青いパパイヤの香り』や『博士と彼女のセオリー』など、これまで数多くの作品で撮影を手がけています。
今回が長編監督デビュー作ですが、そうしたキャリアを考えると、この作品の映像に惹かれたのも納得できます。人物の表情を捉えるカメラ、二人の距離感を感じさせる構図、そして美しく整えられた室内。
特に、セリーヌとアリスが同じ空間にいるのに、どこか心理的な距離が生まれていくような画づくりは印象的でした。
美しいからこそ、その中に潜む違和感が際立つ。
『隣人たち』は、そんな映像の力と、徐々にスリラーへと変化していく作品の空気感も楽しみたい映画です。
見どころ③ 配給会社「NEON」にも注目

今回『隣人たち』を観てみようと思った理由のひとつが、配給を手がけるNEONの存在でした。
NEONは、ハリウッドの大作映画とは少し違った、個性的で作家性のある作品を数多く手がけているアメリカの映画配給会社。
『パラサイト 半地下の家族』や『落下の解剖学』、『ANORA アノーラ』など、映画好きの間で話題になった作品も多く、「NEONが配給する作品なら観てみたい」と思わせてくれる存在です。
私自身も、映画を選ぶときに監督や出演者だけでなく、最近は配給会社をチェックすることがあります。
特にNEON作品は、ジャンルだけを見ると一見バラバラなのに、どこか「普通の映画とは少し違うものを観せてくれそう」という期待感があるんですよね。
『隣人たち』も、アン・ハサウェイとジェシカ・チャステインという豪華キャストだけでなく、1960年代の美しい世界観と、隣人同士の関係が少しずつ崩れていく心理的な怖さが組み合わさった作品。
「どんな映画なんだろう?」という興味を持たせてくれるところは、まさにNEONらしい作品選びだと感じました。
映画を選ぶときは、監督や俳優だけでなく、「どこの配給会社が手がけているのか」にも注目してみると、意外な作品との出会いがあるかもしれません。
『隣人たち』を観た感想|美しい映像の裏にある、母親の愛と狂気

『隣人たち』を観終わって、まず感じたのは「とてもきれいに作られた映画だな」ということでした。
アン・ハサウェイとジェシカ・チャステインの演技は素晴らしく、1960年代のアメリカを再現した衣装やインテリアも美しい。
さらに、物語が進むにつれて、穏やかな郊外の人間ドラマが少しずつ不穏なスリラーへ変わっていく。その変化も面白く、最後まで引き込まれました。
ただ、観終わったあとに「もう少し何か欲しかった」と感じたのも正直なところです。
「愛情」と「疑念」が、少しずつ狂気に変わっていく
この映画で描かれているのは、単純なサイコスリラーではありません。
大きな軸にあるのは、母親の愛情です。
息子を失ったセリーヌと、息子を守ろうとするアリス。
どちらも母親としての愛情から行動しているはずなのに、喪失や嫉妬、疑念が重なることで、その愛情が少しずつ歪んでいきます。
最初は「親友を心配しているだけ」に見えたものが、いつの間にか「相手を疑う理由」になっている。
そして、相手を疑い始めると、何気ない言葉や表情まで怪しく見えてくる。
この感覚が、じわじわと怖い。
物語は郊外の人間ドラマから、まさにヒッチコック的なスリラーへと移行していきます。
だからこそ、もう少し「心の変化」を見たかった
私が少し物足りなく感じたのは、まさにここでした。
映像も美しい。演技も素晴らしい。設定も面白い。
でも、この映画の一番重要な部分である「人の心が変わっていく過程」を、もう少し深く見せてほしかった。
セリーヌは、なぜそこまでの行動に至ったのか。
アリスは、どの瞬間からセリーヌを疑うようになったのか。
二人の間にあった友情や信頼が、どこで崩れてしまったのか。
もちろん物語の中でも描かれているのですが、個人的には、そこにもう一歩踏み込んでほしかったんです。
「この人が、ここまで変わってしまったのも分かる」と、観ている側が感じられるくらい、心の揺れを積み重ねてほしかった。
予想していなかったラスト。でも、もう少し余韻が欲しかった
そして、ラストはかなり意外でした。
「そういう終わり方になるのか」と、思わず考えてしまうような結末。
ここは詳しく書くとネタバレになってしまうので触れませんが、個人的には、その結末にたどり着くまでの心理描写がもう少しあれば、最後の余韻もさらに強くなったように思います。
ラストそのものが悪いというわけではありません。
むしろ、予想していなかったからこそ印象に残りました。
ただ、そこに至るまでの感情の積み重ねがもう少し丁寧だったら、観終わったあとに残るものも違ったのかもしれません。
美しい映画だからこそ、惜しかった
『隣人たち』は、決して悪い映画ではありません。アン・ハサウェイとジェシカ・チャステインの演技、1960年代の美しい世界観、衣装やインテリア、そして撮影。
目に見える部分は、とても丁寧に作られています。
だからこそ、私は「惜しい」と感じました。
目に見える美しさだけではなく、その奥にある人間の心の動きを、もう一段深く描いてくれていたら、もっと心に残る作品になっていた気がします。
そして、観終わってもうひとつ考えてしまったのが、
「もしオリビエ・マッセ=ドゥパス監督が、このリメイク版を最後まで手がけていたら、どんな映画になっていたんだろう?」
ということ。
原作を映画化した『母親たち』を手がけた監督だからこそ、今回の物語をどんなふうに再構築したのか、観てみたかったなと思います。
それでも、二人の名女優が見せる緊張感と、1960年代の美しい映像は、映画館で観てよかったと思えるものでした。
美しい。面白い。でも、もう一歩、心を揺さぶってほしかった。
それが、今回『隣人たち』を観て残った、率直な感想です。
kino cinema 横浜みなとみらいで観てきました

今回は、kino cinema 横浜みなとみらいで『隣人たち』を鑑賞しました。最近は109シネマズへ行くことが多かったので、久しぶりに違う映画館へ行くのも新鮮。
上映から少し時間が経っていたこともあり、平日の昼間なら空いているかなと思っていたのですが、客席は4割ほど埋まっていました。
年齢層は50代前後の方が多い印象で、お友達同士で来ている方もちらほら。
サイコスリラーというジャンルを考えると、ちょっと意外な客層でしたが、平日の昼間ということもあって、ゆっくり映画を楽しみに来ている方が多かったのかもしれません。
そして、今回うれしかったのが木曜日は会員割引で1,000円だったこと。
少し遠くまで足を伸ばしましたが、1,000円で映画を観られると、なんだか得した気分になります(笑)。
映画館を変えると、チラシを見るのも楽しい
普段とは違う映画館へ行くと、もうひとつ楽しみがあります。
それは、置いてある映画のチラシが違うこと。
109シネマズへ行くことが多いので、kino cinemaに置いてあるチラシを眺めているだけでも、ちょっとワクワクしました。
しかも、上映中の作品のチラシも置いてあったんです。
これ、映画好きとしては結構うれしい。
「上映が始まったら、もうチラシは置いていないもの」と勝手に思っていたのですが、気に入った映画は、観終わったあとに「もう一枚持って帰りたい」と思うこともあります。
映画館によって、こういう小さな違いがあるのも面白いですね。たまには、いつもと違う映画館へ行ってみるのもいいなと思いました。
平日の昼間に、少し遠くまで足を伸ばしてサイコスリラーを観る。夏の暑い日に、涼しい映画館でじわじわと怖い映画を観るのも、なかなか良い時間でした。
まとめ|『隣人たち』はこんな人におすすめ
『隣人たち』は、アン・ハサウェイとジェシカ・チャステインという二人の実力派女優の演技を楽しめるサイコスリラーでした。
1960年代のアメリカを舞台にした美しい映像や衣装、インテリアも印象的で、スクリーンで観る楽しさもしっかりあります。
物語は、親友同士の二人の母親を描く人間ドラマから、少しずつ疑念と狂気が入り込むスリラーへ。
派手なアクションがある作品ではありませんが、登場人物の表情や会話の裏にある感情を追いながら観るのが好きな人には楽しめる作品だと思います。
一方で、個人的には、登場人物の心の変化をもう少し深く描いてほしかったという気持ちも残りました。
映像も演技も素晴らしいからこそ、そこにもう一歩、心を揺さぶる何かがあれば、もっと好きな作品になっていたかもしれません。
それでも、予想していなかったラストを含め、観終わったあとに「あれはどういう意味だったんだろう?」と考えたくなる作品。
こんな人におすすめです。
- アン・ハサウェイやジェシカ・チャステインが好き
- 女性同士の心理戦を描いた映画が好き
- サイコスリラーや心理サスペンスが好き
- 『母親たち』など、リメイク作品のオリジナルにも興味がある
- 1960年代のアメリカを感じる衣装やインテリアが好き
- 派手な展開より、じわじわと不安が広がる映画が好き
個人的には「大満足!」というより、「惜しい。でも、観てよかった」という一本。
そして何より、映画を観終わったあとに「もし別の監督が撮っていたら、どんな作品になっていたんだろう?」と考えてしまったこと自体、この映画がそれだけ気になる作品だったということなのかもしれません。
映画館で観るか迷っている方は、ぜひ予告編を観て、少しでも気になったらチェックしてみてください。

