スウェーデンを代表する陶芸家、リサ・ラーソン。赤と白のしま模様が愛らしい猫の「マイキー」をはじめ、温かみのある動物や人物の陶器作品で世界中から愛されています。
私自身も北欧デザインが好きで、マイキーの雑貨やバッグを日常的に愛用しています。しかし、「リサ・ラーソンという人物がどんな人生を歩み、どのような思いでものづくりに向き合ってきたのか」については、これまで詳しく知りませんでした。
今回鑑賞したドキュメンタリー映画『リサ・ラーソンがいた時間』は、彼女の孫であり映画監督でもあるエミリア・エクマン・ラーソンが、祖母リサの晩年を8年間にわたって記録した貴重なドキュメンタリー作品です。
90歳を超えてもなお失われない創作への情熱、最愛の夫グンナルとの暮らし、そして家族との温かな時間。スクリーンを通して、作品の可愛らしさの向こう側にあるリサ・ラーソンの素顔に触れることができました。
今回は、映画『リサ・ラーソンがいた時間』の作品情報やあらすじ、リサ・ラーソンの波乱万丈な生涯、そして実際に鑑賞して心に残った感想を詳しくレビューします。
なお、今回鑑賞(10月23日)に訪れたのは、10月25日に通常営業を終了した銀座の名館「シネスイッチ銀座」。閉館を目前にした歴史あるミニシアターで本作に出会えたことも、忘れられない特別な時間となりました。
映画『リサ・ラーソンがいた時間』作品情報
スウェーデンを代表する陶芸家リサ・ラーソン。彼女の晩年の姿を、孫娘で映画監督のエミリア・エクマン・ラーソンが2017年から8年間にわたり記録したドキュメンタリーです。
- タイトル:リサ・ラーソンがいた時間
- 監督・撮影:エミリア・エクマン・ラーソン
- 出演:リサ・ラーソン、グンナル・ラーソン、マティアス・ラーソン、エミリア・エクマン・ラーソン、フランコ・ニコロシほか
- 日本語字幕:LiLiCo
- 製作国:スウェーデン
- 上映時間:94分
- 劇場公開日:2026年9月18日
あらすじ
2024年に92歳でこの世を去った陶芸家リサ・ラーソン。本作は、彼女の晩年を孫娘エミリア監督のカメラが静かに見つめ続けた記録です。
画面に映し出されるのは、世界的人気作品を生み出す名匠としての姿だけではありません。70年にわたり人生と芸術を共にした画家・夫グンナルとの深い愛、子どもや孫たちと過ごすありふれた日常、そして時に思い悩む一人の女性としての素顔です。
祖母の姿に憧れ、自身も芸術の道を歩み始めたエミリア。孫娘ならではの温かな視線と好奇心に導かれ、リサは自らの生い立ちや創作の原点を語り始めます。愛らしい作品の向こう側に隠された彼女の人生情熱、そして最期の日々まで大切に抱き続けた思いとは――。
リサ・ラーソンとは?マイキーを生んだ陶芸家の生涯

リサ・ラーソン(Lisa Larson)は、1931年にスウェーデン南部のスモーランド地方で生まれた陶芸家・デザイナーです。丸みを帯びた独特のフォルム、素朴でどこかユーモラスな表情の作品は、北欧デザインの代名詞として世界中で親しまれています。
日本でも赤白模様の猫「マイキー」をはじめ、ライオンやハリネズミなどの陶器シリーズが大ヒット。2024年3月に92歳で逝去するまで、70年以上の長きにわたり第一線で創作活動を続けました。
リサ・ラーソンの主な略歴・年表
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1931 | スウェーデン南部、スモーランド地方に生まれる |
| 1949 | ヨーテボリのスロイド・フォレーニング学校(現HDKヴァランド美術デザインアカデミー)に入学し、陶芸を学ぶ |
| 1954 | デザインコンペティションの出品作が巨匠スティグ・リンドベリの目に留まり、名窯グスタフスベリ社に入社 |
| 1956 | ヨーテボリで初の個展を開催 |
| 1980 | 26年間在籍したグスタフスベリ社を離れ、フリーランスとして独立 |
| 1992 | フランコ・ニコローシらと共に「セラミックスタジオ・グスタフスベリ」を設立 |
| 2008 | 日本での注目度が急速に高まり、企業や工房とのコラボレーションが本格化 |
| 2014 | 松屋銀座にて大規模展覧会「北欧の豊かな時間 リサ・ラーソン展」開催 |
| 2022 | スウェーデン政府より芸術・文化への貢献を讃える勲章「イリス・クオルム」を受章 |
| 2024 | 3月11日、92歳で逝去 |
グスタフスベリで才能を開花させる
学生時代の1954年、北欧デザインコンペで頭角を現したリサは、巨匠スティグ・リンドベリにスカウトされスウェーデンの名窯「グスタフスベリ社」に入社します。
当初は1年間の予定だった滞在は、結果的に26年間にも及びました。この時期に代表作「小さな動物園」や「ABC少女」など、約320種類に及ぶ作品群を次々と発表。丸みのある愛らしいフォルムと独特の表情という、彼女ならではのスタイルを確立させていきました。
49歳で独立。フリーランスの陶芸家として新たな挑戦へ
1980年、49歳を迎えたリサは長年勤めたグスタフスベリ社を退社し、フリーランスへ転身。ストックホルム近郊のナッカにアトリエを構え、スウェーデン国内にとどまらずドイツや日本など海外企業との提携を精力的に進めました。
1992年には熟練職人たちと共に「セラミックスタジオ・グスタフスベリ」を設立。過去の名作の復刻や新作の制作に意欲的に取り組み、表現の幅を広げていきました。
日本でも愛される北欧デザインのアイコンへ
リサ・ラーソンと日本の繋がりは深く、1981年の西武百貨店での個展を皮切りに親しまれてきました。特に2000年代以降は人気が再燃し、2014年の松屋銀座での大規模展覧会には多くのファンが殺到。陶器のみならず、インテリア雑貨やキッチン用品などを通じて日本人の生活に溶け込んでいきました。
2022年には長年の功績からスウェーデン政府より勲章「イリス・クオルム」を授与。2024年に92歳で生涯を閉じるまで、彼女は生涯一の「ものづくり人」であり続けました。
グンナル・ラーソンとは?リサを支え続けた画家・デザイナー

リサの夫であるグンナル・ラーソン(1925〜2020)もまた、スウェーデンを代表する優秀な画家・イラストレーターでした。
ヨーテボリのヴァランド美術学校で学んでいた1950年にリサと出会い、2年後の1952年に結婚。以来、約70年間にわたり人生と芸術を共に歩みました。絵画やリトグラフのほか、日本の伝統技法である「楽焼」を夫妻で探求した経験も持ちます。1970年にはグスタフスベリ社から発表された灰皿「クラン」を手がけるなどデザイナーとしても活躍。彼の作品はスウェーデン国立美術館やストックホルム近代美術館にも収蔵されています。
- 1950年:リサと出会う
- 1952年:リサと結婚
- 1966〜67年:家族でアメリカに滞在し、彫刻家ピーター・ヴォーコスのスタジオで制作に没頭
- 1970年:グスタフスベリ社より灰皿「クラン」を発表
- 2020年:逝去
映画『リサ・ラーソンがいた時間』を観た感想|90歳を超えても尽きない創作情熱

本作を観て何より心揺さぶられたのは、リサ・ラーソンのチャーミングな笑顔と、それとは対照的な創作への妥協なき厳しさでした。
普段はお茶目でユーモアにあふれるおばあちゃん。しかし粘土を手に取った瞬間、その瞳はプロの職人の鋭い光を放ちます。形が気に入らなければ容赦なく作品を崩し、納得がいくまで泥にまみれて試行錯誤を繰り返す姿には息を飲みました。
90歳を過ぎても「まだ叶っていない」。巨匠になっても尽きないハングリー精神
映画の中で最も胸に刺さったのが、リサが語ったこの一言です。
「いつか天才的な何かを作れると思っていた。
でもまだ叶っていない。」
世界的な評価を確立し、数々の名作を残したレジェンドでありながら、彼女は己の創作に一度たりとも満足していませんでした。90歳を過ぎてもなお「もっと良いものを作りたい」「まだ理想に届いていない」と言い切るハングリー精神。その終わりなき探求心こそが、彼女を最期まで突き動かしていた原動力なのだと知りました。
夫グンナルとの絆と、互いを高め合った70年
もう一つの見どころは、夫グンナルとの深いパートナーシップです。
若き日に出会い、長い月日を共に過ごした二人。グンナルは夫であると同時に、リサの芸術を誰よりも理解し尊重する最良の理解者でした。2020年に彼が先立った後もリサが粘土を捏ね続けた背景には、二人で積み重ねてきた確かな時間があったからこそだと感じます。夫婦の歩みを知ることで、彼女の作品が持つ温かみに新たな深みが加わりました。
可愛い作品の裏にある「一人の女性」としての葛藤
マイキーに代表される愛らしい世界観の裏で、映画はリサが抱えていた母としての葛藤や、女性アーティストとして生きる苦悩も隠さず描き出します。
世界的な名声を得てからも悩みや迷いは尽きず、家族と過ごす時間について後悔を口にする場面も。孫娘であるエミリア監督だからこそ引き出せた素の表情と会話は、偉大なアーティストである前に「一人の女性として力強く生きたリサ・ラーソン」の人間味を鮮やかに浮き彫りにしています。
映画を観て、もっとリサ・ラーソンが好きになった

これまで「北欧の可愛い雑貨のデザイナー」というイメージが強かったリサ・ラーソン。映画鑑賞を経て、彼女のチャーミングな人柄と、90歳を超えても衰えなかった創作への情熱にすっかり魅了されてしまいました。映画を見終えた今、彼女が暮らしたスウェーデンの風に触れてみたいという思いが強まっています。
『リサ・ラーソンがいた時間』は、マイキーや北欧デザインが好きな人はもちろん、一つの道を極め、生涯現役で自分らしく生き抜いた女性の姿に勇気をもらいたいすべての人におすすめしたい傑作です。映画館を出たあと、きっとあなたの身近にあるリサの作品が、これまで以上に愛おしく感じられるはずです。

